鏡の向こうの静かな世界 新居昭乃『エデン』

 

エデン

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死んだら新居昭乃の曲の世界に行きたいよ〜!

新居昭乃は巷では幻想系の始祖と言われているようで、確かに菅野よう子氏がよく関わっていた初めてのアルバム「空の森」あたりは壮大でプログレ的な曲が多かったが、保刈久明と二人三脚状態になった中期以降(『降るプラチナ』あたりからかな?)はむしろ幻想を通して鏡の向こうの現実を描いているように思える。

それはどこまでも透明で合わせ鏡を見るように果てしない世界だ。『Tune』『Unknown Vision』『Soul of AI』『Lost area』は初期とはまた違う広がりを持つプログレ的楽曲で、聴くたびに圧倒されるし、死後の世界がこうだったらいいのにと思う。

ヒーリングミュージック的な癒しを感じることもあるが、それ以上にオルタナティブというか、対現実ファイティングスタイルではないかなと思うのだ。新居昭乃作品が自然や空想の世界を舞台としながらも、あくまで現実を厳しく見つめる視点を失わないからだと思う。

特に今回取り上げたアルバム『エデン』は9.11を受けて制作された作品で、新居昭乃作品の中でも一番現実に対する批評性が強い作品だ。『パンジー』『神様の午後』などは特にそれを強く感じる。『バニラ』では子どものころの閉じた世界、『砂の岸辺』では他人とのあいだにある膜を通して崩壊のきらめきを眺めているような美しさがある。

直接的にそれをテーマにした曲ばかりが並んでいるわけではないが、全体を通して、自分の世界とそこからへだたりのある果てしない世界、他人、ままならない現実が描かれている。力強く応援してくれるわけでも突き放してくれるわけでもない。新居昭乃の曲はこちらに干渉してこない。そこにあるものが音楽となり、それをどう受け取るかはこちらに委ねられている。感情を握って揺さぶりをかけてくる音楽に疲れたとき、それがものすごく心地良く感じる。

昔弾き語りライブに行ったとき、MCで本人が何気なくついていたため息がすでに音楽だったことに衝撃を受けた。あんな妖精みたいなため息をつける人がこの世に存在すると思うと不思議な気分になる。