ノイジー・記憶・寂寥感 植田真梨恵『Euphoria』

 


 2022年9月に植田真梨恵の3年ぶりのフルアルバム『Euphoria』がリリースされた。
ユーフォリア計画」と題した3ヶ月連続配信リリース企画を踏まえてのニューアルバムであり、メジャーデビュー前から構想が存在したとのことで、度々ファンにその一片を匂わせてきた。上記「ユーフォリア計画」でリリースされた「ダラダラ」「”シグナルはノー“」「BABY BABY BABY」がどれも良作であったことなども含め、とても楽しみにしていた。

 おどろおどろしいベース音から轟音弾けるサビに流れるまでの展開が美しく、世相も匂わせる「EUPHORIA」、以前シングルのカップリング曲として収録された&新たにアレンジを施された「最果てへ」「ダラダラ」、古いヤングアダルト向け洋画のワンシーンを切り取ったような叙情的な「“シグナルはノー”」、なんとなく連絡を取りにくくなった友人にそっと呼びかける歌詞と生活音が心地よい「プロペラを買ったんだ最近」、囁くようなボーカルと終盤のノイジーな展開がセンチメンタルを誘う「HEDGEHOG SONG」、時空を超えて何かに呼びかけるような美メロがたまらないミディアムナンバー「BABY BABY BABY」、今作唯一の弾き語り曲「モアザンミューズ」、以前よりライブで披露されていた曲の待望の音源化「エニウェアエニタイム」、飾り気のないギターと表情を削ぎ落としたボーカルがカッコいい「黎明」、南国っぽいリズム隊と世知辛くも未来への決意を感じさせる歌詞がマッチした「ユートピア」など、全曲にわたって植田真梨恵の実直なメロディーと味わい深いボーカル、素材そのままの現実と過去と夢が混じり合った歌詞が楽しめる。全ての編曲は植田真梨恵本人とBrian the sunの森良太が行ったということもあり、いわゆる古き良き時代のガレージロック&ギターとドラムとベースで構成されたノイジーな生音で統一されており、今までの植田真梨恵の中でも一番コンセプチュアルな一作だといえよう。

 しかしそこが落とし穴というか、こういう音作りが好きな人にはたまらない作品であることは間違いないが、弾き語りの「モアザンミューズ」以外はほぼ同じような音像・イメージであることは否めず、頭から最後まで通して聴くと少々一本調子に感じてしまう。長年追いかけている超コアなファンからすれば植田真梨恵の世界観を濃ゆ〜く楽しめる良い作品である。しかし、それ以外のリスナーの大勢に絶賛されるアルバムかと言われればおそらく否である(本人も似たようなコメントを出していた)。

 とはいえ私はとても好きだ。植田真梨恵をずっと追いかけて生活を重ねてきたファンだからということもあるけれど、植田真梨恵のコアの部分が一番よく滲み出たアルバムだと思う。比較的似た路線の『F.A.R.』『W.A.H』辺りの落ち着いた作品に関しては「これはこれで好きだけど、植田真梨恵にこういう感じは正直まだあまり合ってないな。今後ずっとこの路線だったら残念だな」と感じていたのだが、今作では打って変わって自分のものにしてきた感触がある。この人は作品ごとに雰囲気を変えてくるため、どれを聴いても違う楽しみがあると思う。
 来年1月には全編ラズワルド編成(ボーカル&ギターの植田真梨恵とピアニストの西村広文とでほぼ毎冬アコースティック編成のライブをやっているのです。私はこのライブが大好き)で新録したベストアルバムも出るし、ぜひこの機会に植田真梨恵の音楽に触れてみてはいかがでしょうか。個人的な今作のおすすめは「EUPHORIA」「HEDGEHOG SONG」「BABY BABY BABY」です。