2022年よく聴いた曲たち

 個人的に今年は目まぐるしい一年でした。引越し、仕事の移動、身内の死などなど…。変化に弱い性格なのでその度にうじうじしてましたが、そんな苦しい時間を音楽と友達に支えてもらった気がします。例によって2022年より前に発表された曲も含まれます。

 

新居昭乃「無言の詩」


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 2022年3月に発売されたアルバム『ミツバチの羽音』は初のセルフプロデュース作品(うち2曲は保刈久明作・編曲)ということで、打ち込みと弦楽器、ピアノを主体としたシンプルな編曲と極限まで削ぎ落とした世界観でよりパーソナルに新居昭乃の音楽を感じることのできる作品です。今作唯一のリズム隊(打ち込みだと思うけど)と弦楽器がうつくしいプログレ風「dream,dream」、物語調の歌詞と繊細なアルペジオが独特な物悲しさを醸し出す保刈久明作・編曲の「金の糸の話」などどの曲も粒揃いなのですが、強めのリバーブがかけられたピアノの響きと遠い記憶と心象世界を自由に行き交う歌詞が無限の奥行きを感じさせる「無言の詩」に心打たれました。今年はライブに2回ほど参加でき、そのうちの1回で個人的新居昭乃楽曲No. 1の「Unknown Vision」が聴けて感激でした。新居昭乃の音楽はどんなときも私に安寧の地を与えてくれます。そんな期待を裏切るどころか超えていった一作でした。

 

宇多田ヒカル「BADモード」


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 2022年1月に発売されたアルバム『BADモード』は各所で絶賛の嵐でした。特にリード曲にもなった上記曲は軽やかかつ乾いた打ち込みやホーンの音とセルフケア・恋愛や友愛で区切らない普遍的な他者への愛情など世相をも巧みに反映させた歌詞が素晴らしい。惜しむらくは既出曲が多すぎること(その既出曲が全部凄まじいんだけど)、既出曲を圧倒するアルバム曲がなかったこと(どれも「新しい宇多田」を感じさせる良曲ではある)でしょう。あと個人の思想による問題なんですが、楽曲(コーラスやバイオリンで参加!)や歌詞カード、ジャケ写などで子どもを全面に押し出されているのが受け付けなかった。この作品もとい今の宇多田ヒカルの表現として最高であることは間違いないが、私個人の思想のせいでどうしても…。とはいえ歴史に残る名作。

 

植田真梨恵EUPHORIA


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 2022年9月に発売されたアルバム『Euphoria』のタイトル曲。ことあるごとに構想を仄めかしてきたアルバムがやっと制作されると聞き楽しみにしてましたが期待以上の出来でした。植田真梨恵の音楽はインディーズ時代とメジャーデビュー後に二分されると思っていて、それぞれに魅力と物足りない部分があったのですが、前作『ハートブレイカー』でそこから一皮むけたなと思っていました。その流れを引き継ぎ、植田真梨恵の音楽をさらに深化させた一作として『Euphoria』は今までとは異質な輝きを放っていると思います。おどろおどろしい轟音と薄暗いイメージ、過去と現在を淡々と織り交ぜた上記曲が特に素晴らしい。でもいかんせん全編通すと地味であることは否めないというか…。熱心な植田ファン以外なら、むしろ全く植田真梨恵を知らない人に刺さるんじゃないかな。来年はラズワルド編成のベストアルバムやライブもあるし、これからの植田真梨恵がますます楽しみになりました。

 

 斉藤壮馬「埋み火」「mirrors」


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 なんと今年はミニアルバムを2作もリリースしてくれました。2月発売の『my beautiful valentine』、12月発売の『陰/陽』とどちらも安定して良い作品でしたが、前者のリード曲候補だったというシューゲイザーど真ん中の「埋み火」に心の柔らかい部分を握られたまま過ごした一年でした(しかも珍しく本人の心情が滲み出た歌詞だって話がまた心をかき乱してくる…)。クセの強い楽曲が並ぶ後者の中でも一際存在感を放つリード曲「mirrors」は凛として時雨的エモーショナルミクスチャーロック色の強い楽曲でこちらもストレートに心揺さぶられる一作。来年のソロライブが本当に楽しみ!

 

Fling Posse「とりまget on the floor」


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 昨年末の記事を読んでいただければ分かるのですが、去年は甚だしい解釈違い曲のせいでヒプノシスマイクに病んだ1年でした。今年6月に発売されたヒプノシスマイク2ndアルバム『CROSS A LINE』に収録された新曲「とりまget on the floor」の作詞がAFRO PARKERの弥之助だと知ったときあまりの嬉しさに咽び泣きました(誇張ではなく本当に)。2ndバトル優勝を経て変化した彼らの関係性と今までの儚く気まぐれなパブリックイメージを見事両立させたリリックは天才というより他はなし。作曲はtofubeats!合わないわけないだろうと。ピコピコした可愛らしいサウンドに物悲しさが混じるtofubeats節は想像以上にマッチしています(斉藤壮馬はこれを聴いて「ヒプノシスマイク終わるの?」と言ったとのこちあち)。この曲のおかげでヒプノシスマイクへの恨みがいくらか薄れ、適切な距離でコンテンツを楽しむことができるようになりました。弥之助の描くヒプノシスマイクの世界が本当に大好き。他の同アルバム収録の新曲だと「Scarface」「でらすげぇ宴」も良かった。(某ハマの中の人は大変なことになっちゃったけど…)

 

女王蜂「introduction」


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 前触れなく急に女王蜂にハマりました。以前アルバム『Q』をよく聴いていたのですが、私の口にはちょっと大きいサイズに切られた具材が入っててめちゃ美味しいけど食べにくい料理って感じだな〜という印象で(?)そんなにハマらなかったのですが、アルバム『十』をたまたま聴き返し、こんなに良い曲しか入ってないアルバムなかなかなくない!?と驚愕。王道ながらどこか懐かしいサウンドと普遍的な人間の苦悶と解放を描く歌詞、裏声と地声を自由に行き交うアヴちゃんのボーカルが良いですね。「もう一度欲しがって」「火炎」「HBD」もめちゃくちゃ聴いてました。

 

・aespa「Girls」


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 今年はテレビを買い替えてずっとYouTubeを観てました。とりわけK-POPは自分なりに昨年よりもさらにたくさん聴くようになり、特にヘビロテしてたのが上記曲です。独特なコンセプトで激戦の第4世代の中でも安定して存在感を示しているaespaは耳に残る楽曲と印象に残るビジュアルで中毒性高し。「Savege」もずっと聴いてました。レドベルとのクリスマス曲「Beautiful Christmas」もよかった。

 

・MAMAMOO「ILLELLA」


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 去年はフィインちゃんの事務所移籍もあり激動の年でしたが、約1年ぶりのカムバはママムらしさ全開の情熱的かつオトナなミディアムナンバー。レゲエ要素も取り入れられていて、聴けば聴くほどやみつきになる曲です。同じアルバムに収録された新曲2曲も安定して良かった。
 あとはなんといっても先月の幕張メッセのイルコン!直前でチケット取ったのでほぼ見えない席ではあったのですがもう〜めちゃくちゃ楽しかったです!生歌の破壊力ハンパなかった。特にフィインちゃんは本当に魅力的な歌声ですね。2ygの契約期間終了が差し迫っているのでぶっちゃけ4人のママムを日本で見れるのはこれが最後の機会だろうと思って行ったのですが、グループ継続と次のイルコンをできる範囲で匂わせてくれました。期待してもいいのかな〜。たまにカムバするだけでいいからママムというグループは残してほしいな〜。

 

団地ノ宮「はてな


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 今年12月に初の全国流通のフルアルバム「ゆうやみずかん」がリリースされ、サブスクも一部解禁されました!本当に嬉しい。
 上記のリード曲「ゆうやみずかん」は弦楽器(打ち込み?)も取り入れられており、今までの世界観を崩すことなく、よりメジャー志向に聴きやすくなった団地ノ宮を示す良曲。特にお気に入りなのは民族音楽の要素も取り入れられた「はてな」です(まさしく菅野よう子が関わってた時期の新居昭乃っぽい)。アルバムとしての完成度でいえば、曲数が少し多めなこともあり、通しで聴くと間伸びしている印象も受けます(インタビューで「好きな曲をつまむ感じで聴いてほしい」的なニュアンスの発言をしていたのでそういう方針なのだと思う)。個人的に「ビデオテープ」「12棟と子供」「おいのりの日」ほど刺さる曲はありませんでした。肌に迫るような狂気・イノセンス(でも子どものころって言うほど無垢ではなかった気がしますね)があまり感じられず、過去作より聴きやすくなったというか、全国流通盤であることもあいまって幅広い層に向けて作られた感じがするからかもしれない。この作品で第1章が閉幕するということでどんな変貌を遂げるのかドキドキではありますが、精力的に活動してくれていることが嬉しいユニットです。
 

内田雄馬「Good mood」


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 内田真礼たその実弟内田雄馬。声優業と並行して精力的にソロ音楽活動を行なっている彼の歌唱力はキングレコードお墨付きではありますが、個人的にはそこまで刺さるタイプの曲がなくてスルー気味でした。ですが上記曲はめちゃくちゃツボ!!全編で鳴り響く優しいピアノの音とグルーブを強く感じさせるミディアムテンポの楽曲に内田雄馬のレンジも懐も広い歌声が似合いすぎ。

 

やくしまるえつこメトロオーケストラ「僕の存在証明」


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 2022年の白眉の一つとして、テレビ放映10周年を記念とした鬼才・幾原邦彦監督の『輪るピングドラム』の総集編が公開されたことが挙げられるでしょう。新規カットも含めた総集編とのことでしたが、「きっと何者にもなれないお前たちに…」という印象的なキーワードと共に、キャラクターたちはテレビアニメ版の良さをそこなうことなく10年の時を経て少しだけ優しく前向きな運命に「乗り換え」ました。新たに書き下ろされた上記曲も、テレビ版主題歌「ノルニル」「少年よ我に帰れ」のフォーマットを踏襲しつつもやくしまる楽曲にしては珍しくストレートなメッセージ性を押し出した作品になっています。
 

白波多カミンwith Placebo Foxes「姉弟


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 2016年リリース楽曲。どういういきさつで知った曲だったかは覚えていない。サビの「仏壇の前で君とセックスした」が出オチにならないどころか楽曲の屋台骨としてしっかり機能していて凄みがあります。轟音のロックサウンドに真っ直ぐ飛び込んでくるフラットで飾り気のないボーカル、家族というハコにおける構成員の移り変わりや死んでいる人間と生きている人間の間に横たわる断絶を淡々と描いた歌詞は素晴らしいの一言につきる。人生の折に触れて聴き返す曲になると思います。
 

 Red Velvet「Psycho」(格調高いコンセプトとフェミニンな5人のボーカルが最高)、麻枝准×やなぎなぎ「White Spell」(スマホゲーム『ヘブンバーンズレッド』関連曲が待望の音源化。安定して最高)、AFRO PARKER「Night Heron」(YONA YONA WEEKENDERS磯野くんの声が最大限に生かされた良曲)、月都スペクタクル「ムーンライトディスコ」(スマホゲーム『あんさんぶるスターズ!!』のイベント曲。BRADIO提供の明るいディスコチックな楽曲とこだまさおり神のユーモアと切なさがほとばしる歌詞が本当に素晴らしいです。推しの巴日和様センター曲でもある)、寺尾紗穂「停電哀歌」(北杜夫の詩に曲をつけたもの。ピアノの弾き語りと清廉なボーカルのみで果てしなく豊かでミクロな世界を生み出しています)、XG「MASCARA」(avex秘蔵っ子グローバルガールズグループの2ndカムバ曲。贔屓目抜きに見ても全てにおいてレベルが高い)、Mill &魔法使いの約束「Skin-Deep Comedy/皮一重の喜劇」(スマホゲーム『魔法使いの約束』メインストーリー第2部主題歌。ダークかつ深遠、中盤の狂気を孕んだ畳み掛けるような展開がたまりません)、フィイン「Make me happy」(移籍後初のカムバ曲。フィインちゃんのメルティーボイスと柔らかな音像のバラード曲相性良すぎ)なども良かったです。
 来年も良い音楽にたくさん出会えるといいな!

ノイジー・記憶・寂寥感 植田真梨恵『Euphoria』

 


 2022年9月に植田真梨恵の3年ぶりのフルアルバム『Euphoria』がリリースされた。
ユーフォリア計画」と題した3ヶ月連続配信リリース企画を踏まえてのニューアルバムであり、メジャーデビュー前から構想が存在したとのことで、度々ファンにその一片を匂わせてきた。上記「ユーフォリア計画」でリリースされた「ダラダラ」「”シグナルはノー“」「BABY BABY BABY」がどれも良作であったことなども含め、とても楽しみにしていた。

 おどろおどろしいベース音から轟音弾けるサビに流れるまでの展開が美しく、世相も匂わせる「EUPHORIA」、以前シングルのカップリング曲として収録された&新たにアレンジを施された「最果てへ」「ダラダラ」、古いヤングアダルト向け洋画のワンシーンを切り取ったような叙情的な「“シグナルはノー”」、なんとなく連絡を取りにくくなった友人にそっと呼びかける歌詞と生活音が心地よい「プロペラを買ったんだ最近」、囁くようなボーカルと終盤のノイジーな展開がセンチメンタルを誘う「HEDGEHOG SONG」、時空を超えて何かに呼びかけるような美メロがたまらないミディアムナンバー「BABY BABY BABY」、今作唯一の弾き語り曲「モアザンミューズ」、以前よりライブで披露されていた曲の待望の音源化「エニウェアエニタイム」、飾り気のないギターと表情を削ぎ落としたボーカルがカッコいい「黎明」、南国っぽいリズム隊と世知辛くも未来への決意を感じさせる歌詞がマッチした「ユートピア」など、全曲にわたって植田真梨恵の実直なメロディーと味わい深いボーカル、素材そのままの現実と過去と夢が混じり合った歌詞が楽しめる。全ての編曲は植田真梨恵本人とBrian the sunの森良太が行ったということもあり、いわゆる古き良き時代のガレージロック&ギターとドラムとベースで構成されたノイジーな生音で統一されており、今までの植田真梨恵の中でも一番コンセプチュアルな一作だといえよう。

 しかしそこが落とし穴というか、こういう音作りが好きな人にはたまらない作品であることは間違いないが、弾き語りの「モアザンミューズ」以外はほぼ同じような音像・イメージであることは否めず、頭から最後まで通して聴くと少々一本調子に感じてしまう。長年追いかけている超コアなファンからすれば植田真梨恵の世界観を濃ゆ〜く楽しめる良い作品である。しかし、それ以外のリスナーの大勢に絶賛されるアルバムかと言われればおそらく否である(本人も似たようなコメントを出していた)。

 とはいえ私はとても好きだ。植田真梨恵をずっと追いかけて生活を重ねてきたファンだからということもあるけれど、植田真梨恵のコアの部分が一番よく滲み出たアルバムだと思う。比較的似た路線の『F.A.R.』『W.A.H』辺りの落ち着いた作品に関しては「これはこれで好きだけど、植田真梨恵にこういう感じは正直まだあまり合ってないな。今後ずっとこの路線だったら残念だな」と感じていたのだが、今作では打って変わって自分のものにしてきた感触がある。この人は作品ごとに雰囲気を変えてくるため、どれを聴いても違う楽しみがあると思う。
 来年1月には全編ラズワルド編成(ボーカル&ギターの植田真梨恵とピアニストの西村広文とでほぼ毎冬アコースティック編成のライブをやっているのです。私はこのライブが大好き)で新録したベストアルバムも出るし、ぜひこの機会に植田真梨恵の音楽に触れてみてはいかがでしょうか。個人的な今作のおすすめは「EUPHORIA」「HEDGEHOG SONG」「BABY BABY BABY」です。

宇宙を抱えてひとりで眠る 斉藤壮馬『my beautiful valentine』

 

 

 斉藤壮馬の2ndEP『my beautiful valentine』が先月2月に発売されました。
 贔屓目ありまくりだが、新作を出すたびに完成度を高めていると思う。シュールレアリズムを取り入れたアートワークが可愛らしかったので今回初めて通常盤も買いました。
 
 今回のEPは内省的&ディープかつ本人の趣味をより全開にして作られたとのことで、『林檎』『Vampire weekend』などの分かりやすくダークでエロティックな曲メインの内容になると予想していた。しかし実際に聴いてみるとミディアム調・UKロック色強めの一見明るめなサウンドでまとまった曲が初っ端から4曲続けて並んでいました。
 クラップ音と歌詞の畳み掛けがキャッチーな『ラプソディ・インフェルノ』、「ばっかり」「ちゃっかり」「なったり」のフック(と言うんだろうか?)が心地よい『ないしょばなし』、タイトルからして「やっている」感満載の『Liminal Space(daydream)』、今回のリードトラックにもなった細いファルセットが柔らかな印象を与える『幻日』と、聴き心地の良いのいいバンドサウンドが並ぶ。『Paper Tigers』『sunday morning(catastrophe)』『carpool』などが好きな人にはたまらないゾーンではないだろうか。今回ミックスが格段に良くなっている気がする。音一つ一つに臨場感があるというか。『クドリャフカ』を除いて今回はすべてSaku氏が編曲を担当しているが、もともとの相性の良さやライブツアーを共に回った経験の積み重ねもあるのか、繊細かつ生真面目で過不足ないアレンジはよりぴったりに。
 個人的なツボでいえば5曲目以降の展開に心の柔らかいところを刺された。ダークシューゲイザーをテーマに掲げたという『埋み火』、倉橋由美子作品をイメージしたという、今回唯一打ち込み主体の編曲かつ舐めるようなファルセットが美しい『ざくろ』、本人が編曲まで担当した恒例のシークレットトラック『クドリャフカ』。スプートニク周辺の逸話をモチーフに用いた曲には新居昭乃スプートニク』などがあるが、真っ暗闇を漂う宇宙船の奥底から心象風景へと沈み込んでいく『クドリャフカ』もまた違った諦念の感触があってとても良い。サブスク・ダウンロード勢にも是非CDを手にとって聴いてみてほしい。(2022/11/6 今までのシークレットトラック全てが配信解禁されることになった!『ペンギン・サナトリウム』『逢瀬』もあわせておすすめ!)
 『埋み火』は今までで最もストレートな表現を用いて歌詞を作ったとのことで、まんまと心を持っていかれてしまった。

_______________ 

 焦がしてよ
 目が醒めるたびに ああ今日も
 夢ではないと哀しむだけなら
 もういいよねって思う
 
 壊してよ
 それでも歩き続けている
 なんて馬鹿げたウィアード・テイルだ
 埋み火 消えちゃいそう

______________   『埋み火』

 

 (見栄えが悪い引用だな〜)


 極めてパーソナルな場所に刺さる曲が毎作品ごとに1曲は存在する。それは『結晶世界』『ワルツ』『いさな』『carpool』だったりする。今回は『埋み火』がそこに該当する。個人的にシューゲイザーっぽい曲が好みなのはもちろん、今上げた曲は終盤やリードトラックとして配置されているものがほとんどだ。作品が帯びているメッセージ性、いわばコアの部分が露出しているわけで、そのあたりに漂う何かが私のツボにハマるし、説明できないそれをずっと欲しているのだと思う。
『in bloom』のテーマが「世界の終わりのその先」であると聞いたとき、次の作品は何を描くのかが気になった。受容を明るく肯定する柔らかな曲が増えていくのは寂しかったが、それは杞憂だったと思う。今回のEPは今まで丁寧に描いてきた世界を飛び越え、自分の中にしか存在しないここではないどこかを執拗に描き、楽しむことを肯定した1枚ではないだろうか。
 喪失していくばかりの未来を抱え、他人を誰も乗せないベッドの上で眠るとき、そこにあるものはけして孤独だけではない。
 
 これからはタイアップや他のアーティストとのコラボも見据えた作品作りをしたいとのことで、その前にこういう内省的なテーマを設定した作品を出してくれてありがたい気持ちでいっぱいだ。私は斉藤壮馬の作詞作曲がマジで大好きなので、また今回のようなテーマの作品も作って欲しい。ライブで聴きたい曲がまた増えました。あ〜ライブで埋み火浴びたいよ〜!

2021年よく聴いた曲たち


 2021年は音楽をよく聴いた年でした。
 引き続き在宅勤務メインで、最初は映画を見たりして有意義に過ごそうと頑張ったけど(仕事しろ)マルチタスクはむしろストレスを溜める要因になることに気づいた。最近はもっぱら音楽聴くかYouTubeでゲーム実況流すかです。
 あいかわらずCD派(買ったりレンタルしたり)だけどSpotifyYouTubeで出会う音楽も増えてきました。2021年発売の作品以外もたくさん含まれます。
 
 ・宇多田ヒカル『One last kiss』『君に夢中』


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 『PINK BLOOD』もよかったよね。昨年に引き続き宇多田ヒカルは神がかってて誇張抜きでハズレ曲がなかった。前作『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』から約9年の時を経てついに完結した『シン・ヱヴァンゲリヲン劇場版』の主題歌『One last kiss』は会心の出来で、映画館でエンドロールと共に流れたときは言葉にし難い感情に襲われた。「初めてのルーブルは なんてことは無かったわ 私だけのモナリザ もうとっくに出会ってたから」はヱヴァにとってもあらゆる人生にとってもキラーフレーズ。呪いと愛の境界線を溶かしてしまう受容というリスキーな行為は、ままならない人生を生きていく中でいつか必要になるもの。『Stay Gold』を彷彿とさせる清潔なピアノのリフレインとHIPHOPっぽいアプローチのキックが耳に心地いい『君に夢中』はドラマ『最愛』の主題歌とのことですが私は未視聴です。しかし信じられないくらい刺さった。『君に夢中』という一見ありきたりなタイトルで実は「君に夢中な私」がテーマに据えられているのが上手いと思う。手の届かない誰かにどうしようもなく囚われている人に是非聴いてほしい。来年2月にはニューアルバム『BADモード』が発売されるとのこと。本人のツイートによると「自分自身との関係性に焦点を当てたアルバムになる」ということなので、既出曲と併せると早くも真理の名盤であることが確定しています。
 
 ・団地ノ宮『ビデオテープ』


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 琴子・弥子の姉妹によるユニット。菅野よう子の曲をよく歌っていた時代の新居昭乃楽曲(「そらの庭」あたり)をより身近に•より不穏に•よりノスタルジーに寄せたプログレ的音楽性(神聖かまってちゃんぽさもある)、清廉な響きのダブルボーカル(片方は堀江由衣に少し似てる気が)が中流家庭育ちの私のインナーチャイルドにクリーンヒットしました。聴いていると小学生のときの匂いと風景がまざまざとよみがえり、あまりの生々しさにゾッとするくらいです。平成育ちの脳みそを容赦なく刺激してくるジャパニーズホラーチックなMVも良い。今のところ音源を聴く方法がYouTubeの公式チャンネルか口座振り込みによる通販しかないっぽいんだけどサブスク配信もしてくれないかな。この世界観が好きな人たくさんいると思うんですよ。溶けない名前『ダブル・プラトニツク・スウイサイド』とか好きな方は聴いた方がいいです。
 
 ・ITZY『SWIPE』


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 今年はK-POPもよく聴きました。女性ボーカル好きな私はヨジャドルに目が行きがち。去年から聴いていたママムやヒョナ、チョンハ、少女時代も好きですが、メンバーのキャラクターも含めるとティーン層をターゲットに据えた5人組ガールズクラッシュグループITZYの若々しさとコテコテな楽曲はビーイング/GIZA育ちの私にこれまたクリーンヒットでした。どのメンバーも優等生揃いなせいか「私は私」「勝手にするからほっといて」的なメッセージソングがいい意味でぎこちなく聴こえるとこがたまらない。「swipe、swipe…」の繰り返しが耳に残る『SWIPE』も歌詞の内容的にどう考えてもTinderなどの出会い系マッチングアプリで出会ったカップルの不協和音がテーマなんだけどMVはTikTokをフューチャーした男子禁制パーティー的な仕上がりの映像で、こういうところでカマトトぶってしまうところが良いとこでもあり物足りないとこでもある。終盤のリュジンの表情管理が素晴らしいのでぜひ見てほしい。中毒性ハンパなさすぎて一時期これと『LOCO』しか聴いてなかった。
 
 ・Fling Posse『SHIBUYA GHOST NIGHT』


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 今年はヒプノシスマイクに良くも悪くも心動かされた一年だった。運営のテキトーさ、シナリオの風呂敷広げっぷり、バトルシーズンの阿鼻叫喚などなど、わりと問題だらけの本コンテンツがヒットして支持を得たのはなんだかんだで『楽曲の良さ』は揺らがなかったからだと思うのだが、最近だんだんその楽曲も様子がおかしくなってきた。特にシブヤ・ディビジョンの最新曲(名前を出すのも無理なくらい嫌い)があまりにも解釈違いすぎて2021年上半期から私は文字通り祟り神と化し、一年も終わろうという今現在私の心に影を落としている。そんな暗黒期間を支えてくれたのは2020年から放映されたアニメ『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle- Rhyme Anima』で使用された新曲を収録したアルバム「Straight Outta Rhyme Anima」だ。『SHIBUYA GHOST NIGHT』はライブハウスのお化け退治を任されるフリングポッセのメイン回にぴったりのパーティーソングで、シブヤらしい跳ねるようなおちゃめなトラックとリリックの中に、異端を自覚しつつも自分の好きなものを追いかける三人の刹那的ともいえる生き方が見える。どこを切り取っても良いけど特に帝統パートのちょっとうわずったような声色が素晴らしくそそられます。「好きなものたちだけを信じたい」に救われ慰められた一年だったよ…。このアルバムは本当に捨て曲がない素晴らしい出来栄えで、アニメにおける自己紹介的な意味合いの強い曲もたくさん入っているので、ヒプノシスマイクをあまり知らない人にもおすすめです。麻天狼の『WELCOME U』、EDに使用された全員曲『絆』もよかった。ヒプノシスマイクからは距離を置くけど死に際は看取ってやるよ(誰目線?)
 
 ・田村ゆかり『Never let you go』

(トレイラー的な動画がないどころかiTunesで配信すらしていないようだ) 

 レーベル移籍後初のフルアルバム「あいことば。」は傑作でした。パブリックイメージの電波系萌えキュンちょい重乙女ソングもディープなファンに熱狂的な支持を受けるダークアダルト路線の曲もそんなに入ってないんだけど、ゆかり姫と一緒に歳をとってきた大人ファンの心へ軽やかに届くポップソングが揃っており、個人的には一番好きなアルバムになりました。特に今回挙げた『Never let you go』は、内田彩『ピンク・マゼンダ』『Daydream』、デレマスの『さよならアンドロメダ』『クレイジークレイジー』などを彷彿とさせるkawaii future bass の流れを汲むトラックと和っぽさも含まれた抒情的なメロディ、静かな心象風景に情勢が重なり合う繊細な歌詞、伸びやかなゆかりんの歌が本当に素晴らしい。同アルバムの「Exactly」「花火」も良かったです。
 
 ・印象派『ヘンて言葉、キライ』


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 MIUとMICAによる女性2人組ユニットも久しぶりにアルバムを出してくれて嬉しかった。
 既出曲『WANNA』『常温じゃない関係』『ダーリンナイツ』ではグルーブ感の心地よいバンドサウンドと摩訶不思議かつクールでシュールな歌詞、ソリッドなMICAのボーカルと舌足らずなMIUのボーカルが絡み合ったときの気持ちよさは健在。『ヘンて言葉、キライ』はシュールかつ難解な曲展開が恋と価値観に囚われた女の子の飛躍していく思考回路を描いた歌詞とベストマッチ。ゆっくりとしたリリースペースのユニットなので次回作は3年後とかになるんだろうな。
 
 ・BBHF『Work』


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「あの花」の主題歌でヒットしたGalileo Galileiが名前とメンバーを変えて活動していること、知ってはいたけど聴くのをなんとなく後回しにしていて、今年たまたま聴くタイミングがあり、ことごとく良くてアルバム全部聴いた。ガリレオ時代はなんとなく北欧の少年の思春期を描いたような歌詞を尾崎雄貴の透き通るようなボーカルで聴かされるのがたまらなく好きだったんだけど、BBHFとして再始動してからは、より現代日本に生きる人たちの、毎日くたくたになるまで働いて食って寝て誰かと関わり合って…そんな生活に寄り添った音楽が増えたように思います。『Work』は家族を養うため食っていくための仕事をひたすら続けて歳を取った人の曲。ありふれた人生を編む生活という糸のほとんどは諦念と繰り返しだということを、いわゆる「人間賛歌」に回収されない血の通った手つきで扱われている。これからの活動も楽しみです。
 
 ・斉藤壮馬『carpool』


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 以前このブログでも取り上げたし、2020年12月発売の曲なんですが、やはり毎日のように聴いていたので…。
 今年はアルバム「in bloom」を引っ提げたツアーが開催された。私は東京公演2days参加して、1日目がなんと最前列の席で…(泣)。ここで運を使い果たしたからもう一生ライブでいい席くることないんだろうな…と思いながら夢のような時間を過ごした。数年前まではまさか斉藤壮馬という人にこんなに拗らせることになるとは思ってなかったよね。彼は実在していました。このライブの模様を収めた円盤も秋に発売されたのですが、楽曲の良さもさることながら、ファーストライブと比べて格段に歌が上手くなっていた!!!努力の人よ…。ライブで聴く『carpool』は音源より明るく哀しいニュアンスが強まっていて、ところどころ加えられたアレンジもよかった。来年2月には引き続き全曲斉藤壮馬による作詞作曲の2nd EP「my beautiful valentine」も発売されるとのことで、楽しみすぎて身悶えしてます。
 
 ・Velsipo『Toward the moon』


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 アニメ作品の劇伴などで活躍しているはまたけし新居昭乃によるユニットのアルバムに収録されている曲。揺蕩うようなリズム、はまたけしのハスキーでロマンチックな歌声と静謐な光を思わせる新居昭乃の歌声が、月夜の穏やかな海に船を漕ぎ出すような幻想的な情景を描き出している。アルバム全体が大人の鑑賞に耐える名作ファンタジー小説のような世界観で統一されていて、聴きながら原作のゲド戦記を思い出しました。はまたけしの提供曲を新居昭乃が自分のアルバムで歌うスタイルもよかったけど(『眩光』とか)、このユニットでも新作出してくれないかなあ。今年は新居昭乃のライブに2回参加できて、どちらもとても素晴らしく、どうかできるだけ長い間元気で音楽をつくってほしいという思いを新たにしました。新居昭乃も来年3月にアルバム『ミツバチの羽音』を出すとのこと。年末のライブ「silent  choir」でいくつか披露された新曲がどれも最高だったのでこちらも楽しみです。

 

YOSHII LOVINSON『CALL ME』


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(公式MVもアップされてるけどこの公式ライブバージョンが特に素晴らしいのでこちらを)

 THE YELLOW MONKYのボーカル吉井和哉によるソロプロジェクトの曲。YouTubeのおすすめで流れてきたんだったかな。結構古い曲らしいんですけど曇り空みたいなどんよりした雰囲気の歌詞と切々としたメロディ、渋いバンドサウンドが好みすぎて毎日聴いていたところ、本人の「宇多田ヒカルを意識して作った曲」という発言を見かけて納得した次第。

 

NANA starring MIKA NAKASHIMA『GLAMOROUS SKY』


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 私が今年最も影響を受けた漫画といえば『NANA』。NANAを読破すると(未完だけど)、世界のあらゆる事象と人間関係、感情の動きがNANAに見えてきます。同じく読破した友人とさかんにいろんな現象について「これ大崎ナナじゃない?」と言い合いました。ゆっきゅん・水野しず・せきやゆりえによるトークイベント「NANAナイト」も最高でした。NANAは現代の源氏物語といっても過言ではない…それくらい引力があり、かつ普遍的な運命の悲しさを描いた素晴らしい漫画なのです。矢沢あい先生作詞・HYDE作曲の『GLAMOROUS SKY』は実写映画版の主題歌で、原作者の手による作詞ということもありNANAという概念の「正解」がここにあるといって差し支えないでしょう。


GARNET CROW『His voyage』

His Voyage

His Voyage

 

 GARNET CROWデビュー20周年ということで意味不明な企画(クソダサTシャツ受注生産、追加要素は解散発表mcのみ既出ライブ映像再発売など)がありましたが、全曲サブスク解禁というナイスプレイも一応ありました。いつか遠くへ旅に出ることを夢に身を粉にして働き続けた主人公の行く末を淡々と描いたアラビアンファンタジー的なアップテンポ曲『His voyage』を何故かよく聴いていました。この曲はどちらかというと歌詞に重きが置かれていて、ボーカルやアレンジはあくまで物語を支えるパーツのひとつとして機能しているんだけど、だからこそそれぞれの良さが際立っている隠れた名曲。私にとってGARNET CROWの代わりになる音楽は無いなと実感する一年でもありました。
 
 他にも神聖かまってちゃん『僕の戦争』(マーレ編以降の進撃の巨人にぴったりでした。かまってちゃんのタイアップ曲どれも良いよね)、The Beatles『In my life』(精神的に疲れたとき何故かビートルズを再生する一年でした)、藤井風『何なんw』(なんとなく聴いてみたらめちゃくちゃよかった。良い声)、Wheein『water color』(ママムの推しフィインちゃんのソロカムバ曲。彼女のダンススキルと変幻自在のボーカルが生かされた佳曲でした)、やなぎなぎ『Birth』『今日もデジは猫のふり』、YUKI『My lovely ghost』(令和の価値観とYUKIのユーモアと生活の曲、好きでしかない)、Reol『ウテナ』(ブラックミュージック+ボカロ的な音作り+少年ぽい可愛い声が連ねるヒップホップ的な歌がツボ)、girl in red『we fell in love in october』(MVがまた素晴らしい)、plastic girl in closet 『Labyrinth』(シューゲイザー系バンド。男女ツインボーカルと眠たげなサウンドがクリーンヒット)などもよかったです。
 聴く音楽の幅が広いとはとてもいえないけど、音楽とともに生きているなと思います。

斉藤壮馬の5曲を選んでみよう


 最近、斉藤壮馬の個人名義の曲を人に勧める機会があった。
 悔しいことに私にとって彼の書く曲はだいたいツボなので、彼の音楽を聴いたことがないまたは初めて聴く人にどの曲がどう聴こえるのかがよく分からない。ここでも書いたように、彼に注目する前は「声優っぽくない曲を声優っぽい歌い方の人が歌ってるね」くらいの感想だったので、こんなことになる前の自分の印象は参考にならない。
 現在シングル3枚、アルバム2枚、EP1枚、配信シングル4曲がリリースされている。全部聴いてもらうのが一番手っ取り早いが、いきなり知らない人の音楽を何十曲も聴くのは大変なことなので、テーマ別にそれぞれ5曲選んでみた。重複もありとします。
 
 ◯やってんなー!side POP
「デート」「フィッシュストーリー」「シュレディンガー・ガール」「ペトリコール」
 
 彼の「やってんな」からしか得られない栄養があるので「デート」は重複して選んでいる。
 私は基本的に彼の自作曲が好きなのだが、オーイシマサヨシ氏作詞曲の「フィッシュストーリー」は記念すべきアーティストデビュー曲なだけあり、端的に彼の世界観を表現している明るくも切実な良曲である。曰く「軍隊レベルの生き霊を背負っている」斉藤壮馬が「よりによってお前がこのテーマを扱うのか」と歯軋りしたくなる北欧ポップロックシュレディンガー・ガール」も良い。「ペトリコール」は軽やかなしっとりミディアムテンポの曲だが、よく耳凝らすと声優ならではのささやきや声の跳ね上げ方などなかなか作り込まれている。最初に勧めるならこの5曲+アニメ刀剣乱舞タイアップの「ヒカリ断ツ雨」かな。
 
 ◯やってんなー!side DARK
「林檎」「Vampire weekend」「るつぼ」「C」「レミング、愛、オベリスク
 
 斉藤壮馬の「やってんな」を素直に受け止められないタイプのオタクにおすすめする5曲。
「林檎」はEP『my blue vacation』の中でも屈指の出来である。編曲にESMI MORIが参加しているダンサンブルな「Vampire weekend」もリップ音など経歴を最大限に活かした良曲だ。「C」は冒頭の「しーっ♡」からコーラスの「すたすた」、ストーキングを思わせる歌詞など、ここまで極められるとシュールな笑いが込み上げてくる。「最後のメシアは君の前に現れない」が刺さる人も多いだろう「レミング、愛、オベリスク」は軽快ながらしっかりしたリズム隊の音が気持ちいい。妖艶な「るつぼ」も◯。
 
 ◯この美声を聴け!
カナリア」「逢瀬」「ペンギン・サナトリウム」「ワルツ」「いさな」
 
 シンプルな編成の「カナリア」「逢瀬」、屋根裏から発掘した古いカセットテープをこっそり再生しているような本人弾き語りによる「ペンギン・サナトリウム」はクセの少ない澄んだ声が堪能できる。「ワルツ」「いさな」はシューゲイザー要素の濃い曲で、前者はファルセットの多用したサビが美しい。ナチュラルなボーカルを楽しみたいなら『my blue vacation』以降の曲がオススメ。
 
 ◯シティーボーイ概念に歯を食いしばりたい人へ
「Tonight」「BOOKMARK」「デート」「Sunday morning(catastrophe)」「最後の花火」
 
「デート」の「終電間際の高田馬場で〜」が耳についた人にはこの5曲。
「Tonight」「デート」はまさに流行りのシティポップど真ん中に球を打ち込む憎たらしい2曲である。
「BOOKMARK」は古い友人氏が参加している曲で、モラトリアム時代を懐かしみ生活に流されつつ踏ん張るリリックがピンポイントで刺さりすぎて一時期まともに聴けなかった。ラップは『ヒプノシスマイク』で演じているキャラクターとはまた違う力の抜けた言葉運びが心地よく、友人氏の声とのコントラストが洒落ている。
 
 ◯早稲田卒文学青年成分をとにかく摂取したい
「デート」「デラシネ」「結晶世界」「carpool」「スプートニク
 
 本人が作詞した曲であればほぼ過剰摂取できる成分だが、特にこれはと思う5曲を選んだ。
「今はもう失われたぼくたちだけのサナトリウム」的な概念が頻出するが、「結晶世界」のまさにその閉鎖空間たるユートピアが壊されんとする瞬間を描いたエモ感にやられる文学少女も多いのではなかろうか。「carpool」は今はもう過ぎ去った蜜月を懐かしみ、後悔から解放される爽やかなバンドサウンドが切なく意味深である。このあたりはリリース順に聴くとより楽しめるかもしれない。
 皮肉満載の「成層圏を駆け抜けていく ライカ搭載さ」が印象的な「スプートニク」も個人的にかなりオススメ。
 
 ◯人の好みは二の次!好きな曲はこれじゃ!
「デート」「carpool」「Tonight」「結晶世界」「ペンギン・サナトリウム
 
 単に私が好きな5曲を選んでみたが、結局オーソドックスな選曲に落ち着いた。
 
 改めて意識して聴いてみると、作品数のわりにバラエティに富んでいることに気づく。
 今回は彼のキャラクター性に依ったテーマを設定してみた(というか音楽を説明するボキャブラリーがなさすぎて…)が、音楽全般に詳しい人、歌詞にあまり注目しない人、斉藤壮馬を全く知らない人が選ぶオススメなども気になる。 
 はやく新曲出ないかな〜。

 

※初出書いてなくてすみません。ちなみに2021年9月現在、「ペンギン・サナトリウム」と「逢瀬」はCDかライブ音源CDでしか聴けないはず。

不思議な夢を見てた気がする、今日も仕事だけど 植田真梨恵『ロンリーナイト マジックスペル』

 

 


『ロンリーナイトマジックスペル』は2016年に発売された植田真梨恵のメジャー2ndフルアルバムである。


 前々からモチーフとして用いることが多かったという「夢」をテーマに制作されたアルバムで、シングル曲「わかんないのはいやだ」「スペクタクル」「ふれたら消えてしまう」「夢のパレード」も収録されている。

 リード曲の家族間のすれ違いを描いたバラード「ダイニング」が、今作をおおよそ象徴しているように思う。
 いかんともしがたいことで運命がすれ違う二人を描いたフレンチな「I was Dreamin’ C U Darlin’」、理想と現実の狭間で揺れる日々で叫びがこだまする疾走感あふれる「夢のパレード」、日々の忙しなさに押し流される人々を励ますでも貶すでもなく淡々と描く「犬は犬小屋に帰る」などはもちろん、目まぐるしく夢の情景を描いたポップな「WHO R U?」、ちょこまかしたリフが印象的な「パエリア」、ギターのカッティングとどっしりしたリズム隊が印象的な「悪い夢」なども、派手ではないけれど全部しっかり良い曲である。


 しかし、アルバム全体を覆い尽くし、根っこから支えているのは、先の見えないぼんやりした無力感だ。毎日ずっと長い夢を見ていてあんまり眠った気がしない。ベッドから起き上がるのも億劫だけど仕事や学校には行かなければならない。家族や友人はいるけれど、お互いにどんどん変わっていってしまっている感じがする。心許なくて忙しい日々の合間、本当にあった出来事と絵本やアニメーションの記憶が混ざり合う幼い頃の思い出を気づくと夢想している…的な人物像が浮かび上がってくる。憶測だが、植田真梨恵本人がそういう生活をしていたんじゃないかな?と思ってしまう。それほど人の心の感触がリアルなアルバムなのだ。
 私が初めてこのアルバムを聴いたのは確か大学生のときだった。そのころより、今の方がこのアルバムの良さが分かる気がする。大人の世界に放り出されて少し経って、ようやく見えてきた先の見えない未来を予感しながらも、日々忙しなく過ごしている人の心象風景をぴったり映しとっている音楽だ。

 メジャーデビューしてからの植田真梨恵に共通して言えることだが、あまりにもすべてがジャストフィットすぎるため、一度聴いただけでは良さに気づけないような気がする。そしてその魅力がスルメタイプで発揮するということは、現代の音楽シーンにおいてかなり不利なんじゃないかと余計な心配をしてしまう。肝心のレコード会社も頼りなさすぎるしねえ。


 以下気に入っている曲〜
 
「悪い夢」
 インディーズ時代から存在していた曲らしい。メジャーデビュー前後のライブで弾き語りを聴いた記憶がある。
 リズム隊がどっしり音を構え、ギターがしっかりジャギジャギ言ってるギターポップ。「ロマンティカ」「ペースト」などと印象が近いかな。「君が見た悪い夢を見た 醒めるな 繋がったまま」「瞼の裏に銀の星 不吉な合図に怯えているのかい」など夢の中の抽象的な概念と「長い休みが取れたら きっと海に行く それは叶えるとしよう」「坂道 いつもどおりの朝 眠たい毎日 雨上がりの空に」の現実の生活感の対比の感じがめちゃくちゃ分かる、こういう物理法則が私の心の中にもあると感じる。

というか私がまさにそうだからなんだけど、植田真梨恵の夢(大仰なものではなく、映画の中や絵本の中の出来事のような)と庶民的な現実での生活がマーブル模様的に入り混じっている作風ってオタクに刺さると思うんだよなあ。
 
「JOURNEY」
 浮遊感と疾走感が併走するシンプルでドリーミングな曲。クリスマス付近のライブでよく演奏されてるイメージ。「コンセントカー」「愛と熱、溶解」みたくバンド編成でもラズワルドピアノ編成でも後奏が情熱的に盛り上がるタイプの曲であり、こういうところでもインディーズ時代の息吹が感じられるのが嬉しい。
 
「ダイニング」
 家族というものをテーマに据えてまず出してくるのがこの曲…というのが良い。植田真梨恵は信頼できるぞと思う。
 ゆったりとしたシンセと煙のようなギターの音色が美しいスローかつ眠たげなバラードで、MVは地味ながらも曲の世界観をうまく広げているので是非見てほしい。すれ違う人同士、幼い頃に夢想したマジカルな世界、部屋の片隅で膝を抱えてじっとしている息苦しさなど、このアルバムのテーマがすべてこの曲に詰まっているといっても過言ではない。ファルセットが入り混じる歌声も綺麗で切ない。
 

鏡の向こうの静かな世界 新居昭乃『エデン』

 

エデン

エデン

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死んだら新居昭乃の曲の世界に行きたいよ〜!

新居昭乃は巷では幻想系の始祖と言われているようで、確かに菅野よう子氏がよく関わっていた初めてのアルバム「空の森」あたりは壮大でプログレ的な曲が多かったが、保刈久明と二人三脚状態になった中期以降(『降るプラチナ』あたりからかな?)はむしろ幻想を通して鏡の向こうの現実を描いているように思える。

それはどこまでも透明で合わせ鏡を見るように果てしない世界だ。『Tune』『Unknown Vision』『Soul of AI』『Lost area』は初期とはまた違う広がりを持つプログレ的楽曲で、聴くたびに圧倒されるし、死後の世界がこうだったらいいのにと思う。

ヒーリングミュージック的な癒しを感じることもあるが、それ以上にオルタナティブというか、対現実ファイティングスタイルではないかなと思うのだ。新居昭乃作品が自然や空想の世界を舞台としながらも、あくまで現実を厳しく見つめる視点を失わないからだと思う。

特に今回取り上げたアルバム『エデン』は9.11を受けて制作された作品で、新居昭乃作品の中でも一番現実に対する批評性が強い作品だ。『パンジー』『神様の午後』などは特にそれを強く感じる。『バニラ』では子どものころの閉じた世界、『砂の岸辺』では他人とのあいだにある膜を通して崩壊のきらめきを眺めているような美しさがある。

直接的にそれをテーマにした曲ばかりが並んでいるわけではないが、全体を通して、自分の世界とそこからへだたりのある果てしない世界、他人、ままならない現実が描かれている。力強く応援してくれるわけでも突き放してくれるわけでもない。新居昭乃の曲はこちらに干渉してこない。そこにあるものが音楽となり、それをどう受け取るかはこちらに委ねられている。感情を握って揺さぶりをかけてくる音楽に疲れたとき、それがものすごく心地良く感じる。

昔弾き語りライブに行ったとき、MCで本人が何気なくついていたため息がすでに音楽だったことに衝撃を受けた。あんな妖精みたいなため息をつける人がこの世に存在すると思うと不思議な気分になる。