宇宙を抱えてひとりで眠る 斉藤壮馬『my beautiful valentine』

 

 

 斉藤壮馬の2ndEP『my beautiful valentine』が先月2月に発売されました。
 贔屓目ありまくりだが、新作を出すたびに完成度を高めていると思う。シュールレアリズムを取り入れたアートワークが可愛らしかったので今回初めて通常盤も買いました。
 
 今回のEPは内省的&ディープかつ本人の趣味をより全開にして作られたとのことで、『林檎』『Vampire weekend』などの分かりやすくダークでエロティックな曲メインの内容になると予想していた。しかし実際に聴いてみるとミディアム調・UKロック色強めの一見明るめなサウンドでまとまった曲が初っ端から4曲続けて並んでいました。
 クラップ音と歌詞の畳み掛けがキャッチーな『ラプソディ・インフェルノ』、「ばっかり」「ちゃっかり」「なったり」のフック(と言うんだろうか?)が心地よい『ないしょばなし』、タイトルからして「やっている」感満載の『Liminal Space(daydream)』、今回のリードトラックにもなった細いファルセットが柔らかな印象を与える『幻日』と、聴き心地の良いのいいバンドサウンドが並ぶ。『Paper Tigers』『sunday morning(catastrophe)』『carpool』などが好きな人にはたまらないゾーンではないだろうか。今回ミックスが格段に良くなっている気がする。音一つ一つに臨場感があるというか。『クドリャフカ』を除いて今回はすべてSaku氏が編曲を担当しているが、もともとの相性の良さやライブツアーを共に回った経験の積み重ねもあるのか、繊細かつ生真面目で過不足ないアレンジはよりぴったりに。
 個人的なツボでいえば5曲目以降の展開に心の柔らかいところを刺された。ダークシューゲイザーをテーマに掲げたという『埋み火』、倉橋由美子作品をイメージしたという、今回唯一打ち込み主体の編曲かつ舐めるようなファルセットが美しい『ざくろ』、本人が編曲まで担当した恒例のシークレットトラック『クドリャフカ』。スプートニク周辺の逸話をモチーフに用いた曲には新居昭乃スプートニク』などがあるが、真っ暗闇を漂う宇宙船の奥底から心象風景へと沈み込んでいく『クドリャフカ』もまた違った諦念の感触があってとても良い。サブスク・ダウンロード勢にも是非CDを手にとって聴いてみてほしい。(2022/11/6 今までのシークレットトラック全てが配信解禁されることになった!『ペンギン・サナトリウム』『逢瀬』もあわせておすすめ!)
 『埋み火』は今までで最もストレートな表現を用いて歌詞を作ったとのことで、まんまと心を持っていかれてしまった。

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 焦がしてよ
 目が醒めるたびに ああ今日も
 夢ではないと哀しむだけなら
 もういいよねって思う
 
 壊してよ
 それでも歩き続けている
 なんて馬鹿げたウィアード・テイルだ
 埋み火 消えちゃいそう

______________   『埋み火』

 

 (見栄えが悪い引用だな〜)


 極めてパーソナルな場所に刺さる曲が毎作品ごとに1曲は存在する。それは『結晶世界』『ワルツ』『いさな』『carpool』だったりする。今回は『埋み火』がそこに該当する。個人的にシューゲイザーっぽい曲が好みなのはもちろん、今上げた曲は終盤やリードトラックとして配置されているものがほとんどだ。作品が帯びているメッセージ性、いわばコアの部分が露出しているわけで、そのあたりに漂う何かが私のツボにハマるし、説明できないそれをずっと欲しているのだと思う。
『in bloom』のテーマが「世界の終わりのその先」であると聞いたとき、次の作品は何を描くのかが気になった。受容を明るく肯定する柔らかな曲が増えていくのは寂しかったが、それは杞憂だったと思う。今回のEPは今まで丁寧に描いてきた世界を飛び越え、自分の中にしか存在しないここではないどこかを執拗に描き、楽しむことを肯定した1枚ではないだろうか。
 喪失していくばかりの未来を抱え、他人を誰も乗せないベッドの上で眠るとき、そこにあるものはけして孤独だけではない。
 
 これからはタイアップや他のアーティストとのコラボも見据えた作品作りをしたいとのことで、その前にこういう内省的なテーマを設定した作品を出してくれてありがたい気持ちでいっぱいだ。私は斉藤壮馬の作詞作曲がマジで大好きなので、また今回のようなテーマの作品も作って欲しい。ライブで聴きたい曲がまた増えました。あ〜ライブで埋み火浴びたいよ〜!