原点にして頂点 GARNET CROW『first soundscope~水のない晴れた海へ~』

 

 

 

墓場に一枚だけCDを持っていけるなら、おそらくこのアルバムを選ぶ。

名探偵コナンをきっかけにBeing/GIZAの音楽を聴くようになり、それからオタクなりにいろいろと手を広げて今に至るわけだが、中学生の時に出会ったこのアルバムを超える音楽に出会えるかどうか分からない。もちろん思い出補正もあるけど、10年以上聴いていても全く飽きないし古びないのだ。

GARNET CROWの音楽に関しては10年以上ものあいだマジでずっと聴いているため、もはや客観的にあれこれ言うことはできない。しかしこのアルバムは万人受けはせずとも熱狂的に愛する人がもっと増えてもおかしくない傑作ではないだろうか? 私個人はあまりストリーミングサービスが好きではないが、名探偵コナンもまだまだ人気なことだし、サブスク解禁してくれればもっと間口が広がるはずなのに…。

(2021.7.2追記 なんと20周年企画として全楽曲サブスク配信されました!!!!みんな聴こう!!!!)

 

『first soundscope~水のない晴れた海へ~』はGARNET CROWのファーストメジャーアルバム(インディーズで出たミニアルバムも荒削りながら傑作)で、今から約21年前に発売された。初期GARNET CROWはジャンルとしてはネオアコに分類されていたようで、ささやかなアコギや打ち込みリズム隊による編曲が特徴的だ。そこにボーカル中村由利氏のダウナーでやる気のないアルトボーカル(キャリアを重ねるにつれて力強い歌声に変化していったが)、作詞AZUKI七氏のよく練られた厭世的かつ文学的な歌詞が乗っかるともうたまらない。人によっては暗くて聴いてられないかもしれないが、私にはこの温度感がちょうどよく、いつ聴いても飽きない。

本作のジャケットはエヴリシング・バット・ザ・ガール『ランゲージ・オブ・ライフ』のオマージュ(ここまでくるともろパクリ…?)だが、このセピア色で年齢不詳な感じが作品によく合っている。裏ジャケには天使の像や蛇、深い森、カラスなどが写っていて、1960年代あたりの洋画の雰囲気があり、これもまたいい。

名探偵コナンの主題歌にもなった「Mysterious Eyes」「夏の幻」、テイルズオブエターニア主題歌として今も人気が高い(らしい)「flying」なども入っている。もちろんそれらの曲もいいのだが、GARNET CROWの真髄がアルバム曲やカップリング曲にあることはファンなら誰しも知るところである。

悲しげに響くピアノの旋律と冷たいボーカルが垂涎ものの「水のない晴れた海へ」、多幸感とちょっぴり悲壮感のさじ加減がちょうどいいネオアコサウンド「君の家に着くまでずっと走ってゆく」、和的なモチーフを取り入れた暗い「巡り来る春に」、GARNET CROW的ネオンサウンドHAPPY DAYS?」、疾走感と後半の「I want to slide your heart」のリフレインが美しい「Rhythm」、怪しいシンセサイザーの音とファルセットが印象的な「Holding you, and swinging」などバラエティ豊かな曲が続く。捨て曲はこのアルバムに存在しない。

正直欠点が見つからないというか、私にとって完璧なアルバムなので、良い意味で言うことが何もない。内省的で文学や宗教の要素を取り入れた歌詞が好きな人、主張が激しくない低めでダウナーな女性ボーカルが好きな人にはおすすめできる。個人的には斉藤壮馬の歌詞が好きな人も好きだと思う(3月末、彼もGARNET CROWを結構聴いていたことがラジオの発言などにより判明した。貴様、ここでも私の心を乱すのか…)。

デビュー20周年企画と銘打ち、ダサくて割高なTシャツを何十種類も受注販売したり、解散発表映像を加えた既出のライブのブルーレイを出したりする意味不明なBeing/GIZAに思うところはものすごくあるが、このアルバムもといGARNET CROWの音楽を生み出してくれたことにはずっと感謝しているし、私にとって代わりがきかない存在であることは確かである。シンフォニックコンサートと5周年記念ライブを映像ソフト化してくれたら絶対に買うのになあ。