斉藤壮馬の5曲を選んでみよう


 最近、斉藤壮馬の個人名義の曲を人に勧める機会があった。
 悔しいことに私にとって彼の書く曲はだいたいツボなので、彼の音楽を聴いたことがないまたは初めて聴く人にどの曲がどう聴こえるのかがよく分からない。ここでも書いたように、彼に注目する前は「声優っぽくない曲を声優っぽい歌い方の人が歌ってるね」くらいの感想だったので、こんなことになる前の自分の印象は参考にならない。
 現在シングル3枚、アルバム2枚、EP1枚、配信シングル4曲がリリースされている。全部聴いてもらうのが一番手っ取り早いが、いきなり知らない人の音楽を何十曲も聴くのは大変なことなので、テーマ別にそれぞれ5曲選んでみた。重複もありとします。
 
 ◯やってんなー!side POP
「デート」「フィッシュストーリー」「シュレディンガー・ガール」「ペトリコール」
 
 彼の「やってんな」からしか得られない栄養があるので「デート」は重複して選んでいる。
 私は基本的に彼の自作曲が好きなのだが、オーイシマサヨシ氏作詞曲の「フィッシュストーリー」は記念すべきアーティストデビュー曲なだけあり、端的に彼の世界観を表現している明るくも切実な良曲である。曰く「軍隊レベルの生き霊を背負っている」斉藤壮馬が「よりによってお前がこのテーマを扱うのか」と歯軋りしたくなる北欧ポップロックシュレディンガー・ガール」も良い。「ペトリコール」は軽やかなしっとりミディアムテンポの曲だが、よく耳凝らすと声優ならではのささやきや声の跳ね上げ方などなかなか作り込まれている。最初に勧めるならこの5曲+アニメ刀剣乱舞タイアップの「ヒカリ断ツ雨」かな。
 
 ◯やってんなー!side DARK
「林檎」「Vampire weekend」「るつぼ」「C」「レミング、愛、オベリスク
 
 斉藤壮馬の「やってんな」を素直に受け止められないタイプのオタクにおすすめする5曲。
「林檎」はEP『my blue vacation』の中でも屈指の出来である。編曲にESMI MORIが参加しているダンサンブルな「Vampire weekend」もリップ音など経歴を最大限に活かした良曲だ。「C」は冒頭の「しーっ♡」からコーラスの「すたすた」、ストーキングを思わせる歌詞など、ここまで極められるとシュールな笑いが込み上げてくる。「最後のメシアは君の前に現れない」が刺さる人も多いだろう「レミング、愛、オベリスク」は軽快ながらしっかりしたリズム隊の音が気持ちいい。妖艶な「るつぼ」も◯。
 
 ◯この美声を聴け!
カナリア」「逢瀬」「ペンギン・サナトリウム」「ワルツ」「いさな」
 
 シンプルな編成の「カナリア」「逢瀬」、屋根裏から発掘した古いカセットテープをこっそり再生しているような本人弾き語りによる「ペンギン・サナトリウム」はクセの少ない澄んだ声が堪能できる。「ワルツ」「いさな」はシューゲイザー要素の濃い曲で、前者はファルセットの多用したサビが美しい。ナチュラルなボーカルを楽しみたいなら『my blue vacation』以降の曲がオススメ。
 
 ◯シティーボーイ概念に歯を食いしばりたい人へ
「Tonight」「BOOKMARK」「デート」「Sunday morning(catastrophe)」「最後の花火」
 
「デート」の「終電間際の高田馬場で〜」が耳についた人にはこの5曲。
「Tonight」「デート」はまさに流行りのシティポップど真ん中に球を打ち込む憎たらしい2曲である。
「BOOKMARK」は古い友人氏が参加している曲で、モラトリアム時代を懐かしみ生活に流されつつ踏ん張るリリックがピンポイントで刺さりすぎて一時期まともに聴けなかった。ラップは『ヒプノシスマイク』で演じているキャラクターとはまた違う力の抜けた言葉運びが心地よく、友人氏の声とのコントラストが洒落ている。
 
 ◯早稲田卒文学青年成分をとにかく摂取したい
「デート」「デラシネ」「結晶世界」「carpool」「スプートニク
 
 本人が作詞した曲であればほぼ過剰摂取できる成分だが、特にこれはと思う5曲を選んだ。
「今はもう失われたぼくたちだけのサナトリウム」的な概念が頻出するが、「結晶世界」のまさにその閉鎖空間たるユートピアが壊されんとする瞬間を描いたエモ感にやられる文学少女も多いのではなかろうか。「carpool」は今はもう過ぎ去った蜜月を懐かしみ、後悔から解放される爽やかなバンドサウンドが切なく意味深である。このあたりはリリース順に聴くとより楽しめるかもしれない。
 皮肉満載の「成層圏を駆け抜けていく ライカ搭載さ」が印象的な「スプートニク」も個人的にかなりオススメ。
 
 ◯人の好みは二の次!好きな曲はこれじゃ!
「デート」「carpool」「Tonight」「結晶世界」「ペンギン・サナトリウム
 
 単に私が好きな5曲を選んでみたが、結局オーソドックスな選曲に落ち着いた。
 
 改めて意識して聴いてみると、作品数のわりにバラエティに富んでいることに気づく。
 今回は彼のキャラクター性に依ったテーマを設定してみた(というか音楽を説明するボキャブラリーがなさすぎて…)が、音楽全般に詳しい人、歌詞にあまり注目しない人、斉藤壮馬を全く知らない人が選ぶオススメなども気になる。 
 はやく新曲出ないかな〜。

 

※初出書いてなくてすみません。ちなみに2021年9月現在、「ペンギン・サナトリウム」と「逢瀬」はCDかライブ音源CDでしか聴けないはず。